我々の周りにはコンピュータがあふれています.デスクトップやノートなどのコンピュータだけでなく,スマートフォンから家電まであらゆるところに,いわゆるコンピュータは入っています.ではこれらのコンピュータの特徴は何でしょうか?なんらかの入力装置(キーボードやスイッチ,タッチセンサなど)があり,そこで入力された情報がコンピュータの心臓部である演算装置(CPU: Central Processing Unit)に送られ,なんらかの計算をして,画面などに文字を表示したり音を鳴らしたりします.これらは出力装置と呼ばれ,情報が入力装置から中央演算装置へ,そして出力装置へと送られる中で,情報が変換されていくのです.下の図は,こうしたコンピュータの仕組みを,ヒトにあてはめてみたものです.

我々には,感覚器や受容器と呼ばれる入力装置があります.目や耳,触覚など五感と呼ばれるものですね.この五感を使って環境からの様々な情報を我々は収集しています.そこで収集された情報は脳に送られ,そこで例えばコーヒーカップの位置や形を認識して,手を動かしてカップを掴みにいくのでしたね(#01参照).ヒトの場合には,入力装置は目や耳,中央演算装置は脳,出力装置は我々の身体(筋や骨)ということですね.ただ,コンピュータと違って,運動の修正を行う装置も組み込まれていて,これがフィードバックです.コンピュータの場合には,我々がなにか入力する時に,もし間違っていても勝手に修正はしてくれず,自分で修正しなければいけませんね.もちろん,最近ではキーボードからの入力が多少間違っていても,変換すべき候補を提示してくれたり,補完してくれるような機能もありますが.

下の図は,このようにヒトの動く仕組みをコンピュータに見立てたもので,情報処理モデルとも呼ばれます.ここでは中央演算装置の部分が3段階に分かれていますが,情報が感覚器官を通して処理装置(脳)に送られ,筋・骨格系に最終的には送られる仕組みは同じです.ただ,処理の中で,入ってきた情報が何か(例えば,信号の色は青かという刺激同定),その情婦に応じてどういった動きをするか(信号が青なら歩くでしょうし,赤なら止まるといった反応選択),そして選ばれた動きに応じて具体的にどのように身体を動かすか(足をどのように動かすかという反応プログラミング)という段階を踏むと考えられています.また,フィードバックの経路もいくつかあり,内在フィードバックというのは,自分の足を動かしている感覚(どれくらい膝が曲がって,どのくらいの高さまで上がっているかといった感覚で体性感覚とも呼ばれますが,普段はあまり気にはならないでしょうが)のことです.他方,外在フィードバックというのは足を動かした時に,例えば水たまりがあり,つま先の動きに目を向け,自分の着地する足をわずかに右へ動かすような場合です.この時には,自分の足の動きの感覚だけでなく,水たまりの位置や自分の足の位置を目で見て調整する必要があります.このための情報が,外在フィードバックといって,外受容器と呼ばれる,視覚や聴覚などを介して伝えられる情報です.

Whiting, H. T. A. Readings in human performance, 1975 より

こうしてヒトをコンピュータと見立てることによって,我々も一つの情報処理装置として捉えることが可能となります.すると,例えば,うまく運動ができない時の原因は,入力部分にあるのか(例えば,視力が低下していて物体がはっきり見えていない),あるいは処理中に刺激の意味がわからないのか(例えば,監督が出したサインを見てもその意味を忘れた時など),さらには出力をしようと思ったが,自分の身体自体が思うように動かないのか(例えば,身体が硬くて思ったように手が届かないなど)といったように,何がよくなかったかを特定できるのです.それぞれのパーツを改善することによって,全体としての性能が上がると考えるものです.確かに一理あり,分かりやすのですが,一つ一つの部品の性能が上がっても,全体としての性能が必ずしも上がらないこともあります.