物体の運動の様子を表すには位置と運動量,あるいは位置と速度の両方が少なくとも必要です.そして,この状態変数で作る空間を状態空間,あるいは位相空間と呼びます.さらにあるシステムを記述する力学変数全体で作る多次元空間も状態空間・位相空間と呼ばれます.下の動画を見てください.振り子を振った時の角度変化が上の図で,左下が振り子の様子,右下がその状態空間で横軸に角度,縦軸に角速度を取ったものです.これは調波振動と呼ばれるもので,永遠に同じ振幅で振り子が動き続けている場合です.したがって,上の角度変化の時系列は同じ振幅を示しています.すると状態空間では円形の閉軌道になります.これがアトラクタと呼ばれるもので,時間がたって行き着く集合です.この場合の閉軌道をリミットサイクルアトラクタと呼んでいます.

では次はどうでしょうか.下の図は,減衰振動で,徐々に振幅が小さくなって,最終的には振り子が静止する場合です.上の図同様,上は角度変化の時系列です.右下の状態空間を見ると,軌道は徐々に小さくなって最終的には,角度,角速度ともゼロ,すなわち静止状態に行き着きます.したがって,これは点アトラクタ,ポイントアトラクタと呼ばれています.このように,状態空間上の軌道を見るとそのシステムの特徴がアトラクタとして記述でき,システムの時間発展を記述できることがお分かりいただけるでしょう.例えば,歩行などの場合には周期的な運動なので,ひざの関節角度と関節角速度を状態空間上で表してみると,きれいな円にはなりませんが閉軌道となり,リミットサイクルアトラクタであることがわかります.言いかえればリミットサイクルアトラクタとは周期運動を行うシステムであるといえます.こうしたアトラクタには,トーラスやカオスなどがあるのです.

では有名なカオスアトラクタの一つ,ローレンツアトラクタを見てみましょう.気象学者のローレンツが発見したアトラクタで,以下の3つの非線形微分方程式で表されます.左上が3次元空間内の軌道で,それ以外はx, y, zの2変数の組み合わせで2次元で軌道を示しています.いわゆる初期値鋭敏性を持つ決定論的カオスと呼ばれるものです.

$$\frac{dx}{dt} = \sigma (y – x)$$ $$\frac{dy}{dt} = x (\rho – z) -y$$ $$\frac{dz}{dt} = xy – \beta z$$

ここで,σ,ρ,βはパラメータで,以下の図では,$$\sigma = 10, \rho = 28, \beta = 8/3$$にしてあります.なお,xは対流運動の速度,y, zは水平方向と垂直方向の温度変位、σはプラントル数、ρはレイリー数、βは系の物理的サイズに関わる数だそうです.

こうした,いわゆるストレンジアトラクタはいくつも見つけられており,ちょうどローレンツがローレンツアトラクタを発見したのは1961年で,同じ年に上田睆亮先生が,ウエダアトラクタ(ジャパニーズアトラクタ)を,電気回路のシミュレーションから発見しています.