サッカーやバスケットボール,ラグビーなどの集団スポーツでは,複数のプレイヤーらによる協調した動きが,多くの観客を魅了します.「いま」「ここ」が完璧なパスワークの連続をみると,まるで,あらかじめ決められたシナリオがあるかのようです.しかしながら,多くの場合でプレイヤーは,ゲーム状況や敵味方の動きに応じて,即興的に動いていると考えられます.こうした動きを可能とする熟練者の協調パターンには,どのような規則が潜んでいるのでしょうか?また,初心者がその技能を獲得するためには,どのような練習をすればよいのでしょうか?私たちは,集団の組織的なふるまいの基本単位が「三者」であると考え,三者の協調パターンの動的変化の仕組みの理解とその応用について研究を進めてきました.ここでは,これらの研究について紹介いたします.

熟練者の協調パターン

 「息の合ったプレー」「波長が合う」などと表現されるように,プレイヤーのふるまいには,なんらかのリズムがあり,そのリズムが揃う(同期)ことがあると考えられます.さらに,こうしたリズム同期をチーム全体で持続的に実現するためには,3名のプレイヤーの連携が基本と考えられます.これは,集団スポーツの現場で「三人目の動き」が重要とされているように,ボールを保持するプレイヤー(1人目)と,そのボールを受け取るプレイヤー(2人目)に加えて,ボールに関わらないプレイヤー(3人目)が,1人目,2人目といかに連携できるかが重要と考えられます.こうした連携プレーの熟達差を調べるために,私たちは,「鳥かご」などと呼ばれ,サッカーの連携技能を高めるための基礎練習で用いられる3対1ボール保持課題(限られた領域内で,3名のプレイヤーが1名のプレイヤーにボールを奪われずにパスを回す課題)を対象に実験を行いました(動画1).

動画1:熟練者の例

 撮影したビデオ映像をもとに,プレイヤーのリズムを評価するために,三者を結んだ三角形の内角を測定しました(図1).その理由は,三角形の内角は,ボールを保持するプレイヤーが持つ2つのパスコースを挟む角度であり,この角度が大きければ敵のプレイヤーの位置からパスコースが遠くなって,パスをしたボールを奪われる可能性が低く,逆に角度が小さければ,奪われる可能性が高くなる傾向にあります.つまり,内角は,パスを維持するためのバロメーターといえます.そして三者は,ボールを保持するプレイヤーを頂点とする内角の角度を,大きするために動くと考えられますが,三角形の内角は180度で一定であるため,パス回しを維持するために,三角形の3つの内角それぞれが,大きくなったり,小さくなったり,といったリズムが生じていると考えたためです.

図1:三者を結ぶ三角形の内角を測定

 実際に,三角形の内角の時間変化をみてみると,以下の図のようになりました.これは,1分半の課題を実施した際の3名が作る三角形の内角の時間変化を熟練者と初心者について示しています.グラフが途切れているのは,パスが繋がらなかった時間帯です.このグラフから分かるように,熟練者は,三角形の内角のグラフが60度付近で変化していますが,初心者は,60度から大きく離れた位置で変化していることが分かります.また熟練者は初心者に比べて,内角のリズム振動が細かいことが分かります.つまり,熟練者は,三者が正三角形に近い形状を早いリズムで維持している一方で,初心者は,ゆったりとしたリズムで正三角形を崩しているようです.上述したように,三角形の内角の和は180度で一定であるため,ある時点において1つの内角が大きい場合には,残りの2つの内角は小さくなります.したがって,小さい内角を頂点とするプレイヤーにパスを回すと,敵にボールを奪われる可能性が高くなります.まさに初心者の状態といえます.一方で熟練者は,いずれの内角も大きすぎず,小さすぎないように,いずれの内角も等しい正三角形に近い形状を維持することによって,パスを長く繋げているといえます.

図2:三角形の内角の時間変化(左)と各技能レベルで多く観察されたパターン(右)

 さらに,三角形の内角のリズムの特徴を詳細に調べてみると,図2の右側にあるように,熟練者と初心者で三角形の内角がつくるリズムの特徴に違いがあることが分かりました.具体的には,熟練者は3つの内角が大きくなったり,小さくなったりするリズムが,少しずれながらも一定のタイミングでピークを迎える傾向が多いことが分かりました.上述したとおり,ボール保持者の内角が大きいほど,敵のプレイヤーにボールを奪われる可能性が低くなると考えられます.つまり,内角のピークのタイミングが時間遅れでやってくるのは,パスを回す際のボール保持者の内角が大きくなる傾向を示していると考えられます.一方で初心者は,2つの内角のピークが逆方向で一致し,残りの1つの内角がピークを持たない一定のパターンの頻度が多い傾向であることが分かりました.これは,2人のプレイヤーがほとんど動かず,1人のプレイヤーのみが移動した場合によく起こる特徴と考えられます.つまり,ボールを受け取るプレイヤーのみが,動いている状態と考えられます.

動画2:熟練者にみられたパターンの典型例
動画3:初心者にみられたパターンの典型例

 こうした傾向は,熟練者と初心者で,リズムの揃い方(同期)のパターンが異なることを示しています.興味深いことに,ここで観察されたリズム同期のパターンの違いは,群論に基づく対称性のホップ分岐理論から数学的に導くことができます.この理論では,リズム素子の幾何学的な繋がりの対称性に注目することによって,複数のリズムがどのような同期パターンを生むのかを,群論を用いて解くことができるとされています.例えば,四足動物の歩様パターンは,ウォークから,トロット,ギャロップというように,移動のスピードが増すにつれて歩様のパターンが変化することが知られています.これは,4つの脚のリズムの同期パターンの相転移といえますが,対称性のホップ分岐理論では,こうしたパターンの出現についても数学的に導くことができるとされています.

 さて,3つのリズムでは,どのような同期パターンが出現すると予測されるのでしょうか?想定される同期パターンは,まったく同じリズムを刻む完全同期のパターン,3つのリズムが均等な時間ずれで同期する回転パターン,2つのリズムが逆位相で同期し,残りの1つが2倍の周期となる部分逆位相パターン,2つのリズムが同位相で同期し,残りの1つが逆位相で同期する部分同位相パターンとされていました.この研究でみられた熟練者と初心者のパターンは,回転パターンと部分逆位相パターンに相当すると考えられます.サッカーをするプレイヤーの動きが,数学的に予想されたパターンに従っていると考えると,我々ヒトの動きも自然の摂理のひとつに組み込まれているように思えます.さらに興味深いことに,熟練者で多くみられた回転パターンは,初心者の部分逆位相パターンよりも,3つのリズム素子の同期の時空間の対称性が高いとされています.つまり,洗練された熟練者の巧みな協調パターンには,対称性の高い規則が潜んでいると考えられます.

(出典)Yokoyama, K. & Yamamoto, Y., Three people can synchronize as coupled oscillators during sports activities, PLoS Computational Biology, 6, e1002181, 2011.

三者協調に必要な「見えない力」

 上述した研究では,リズム同期の視点から,熟練者と初心者の協調パターンの違いを明らかにすることができました.その次の疑問は,熟練した協調パターンを実現するためには,各プレイヤーはどうやって動くべきなのか,といった疑問です.これを調べるために私たちは,個人のプレイヤーの動きの数理モデルを作り,三者の協調パターンを再現してみることにしました.モデルを作る際には,群集行動のシミュレーションなどで用いられている,社会的な力モデル(social force model)を参考にしました.社会的な力モデルとは,人混みでの歩行者が,他の歩行者や障害物を回避したり,目標とする方向へ向かう動きが,モノやヒトとの社会的な位置関係に基づいて発生する社会的な力に駆動されている,という仮説のもとに作られたモデルです.個人の動きのモデルを構築することにより,複数の歩行者からなる群集のパターンを再現されています.そのため,例えば,群集のスムーズな移動を導くためには,建物の設計をどのようにデザインすべきか,などといった側面についても応用されています.こうしたモデルは,すべての動きの可能性を説明できるものではありませんが,複雑な現象を構成する要因を理解する方法として重要であると考えています.こうした科学的手法は,現象を解析してその機構を調べる解析的アプローチに対して,モデルによって現象を再構成する構成論的アプローチと呼ばれています.

 さて,スポーツの話に戻しましょう.私たちは,上述した研究で用いた3対1ボール保持課題を題材として,プレイヤーの動きのモデルを作りました.このモデルでは,三者のプレイヤーはそれぞれ,以下の図1に示すように,「空間力」「回避力」「協調力」という3つの社会的な力の総和によって駆動されていると仮定しました.具体的には空間力は,コートの外に出ないようにするもので,プレイエリアの中心から離れると中心へ引き戻される力としました.また回避力とは,敵のプレイヤーが接近すると遠ざかる力としました.さらに協調力とは,仲間のプレイヤーが接近すると遠ざかり,遠くなれば接近する力としました.なお,これら3つの力の度合いは,図1の下に示すように,ある一定の基準を設けて,各対象物からの相対的な距離に依存して線形に増減すると仮定しました.また,距離に応じた力の度合いは,パラメータによって変更できるようにしました.具体的には,図2下段のグラフの傾きに相当します.

図1:3対1ボール保持課題を行う三者のプレイヤーの動きのモデル

 実際に,このモデルを考慮して三者の動きをシミュレーションしたものが以下になります(動画1).正方形は,プレイエリアを示し,赤い◎はボール,黒い●は三者のプレイヤー,〇は敵のプレイヤーを表しています.赤い点線の円は,「空間力」が働く境界線を表しており,この円よりも,プレイエリアの中心から遠い位置に三者のプレイヤーがいた場合に,コート中心へ接近する力が働きます.また,青い点線の円は,「回避力」が働く境界線であり,この円の内側で敵のプレイヤーへ接近するほど,敵のプレイヤーから離れる力が働きます.さらに,緑色の線の長さは,「協調力」の基準の長さであり,この線よりも,二者のプレイヤーの位置関係が遠い場合には,二者が接近する力が働き,二者が近い場合には,離れる力が働きます.これら三つの力を総和した社会的な力によって,プレイヤーが動いているとしました.なお,三者のプレイヤーのうち,ボールを受け取る役割となる場合には,これらの力を察知せずに,ボールを追いかけることとしました.さらに,パスの順番はランダムとし,パスの方向やパスの時間間隔は,前述した課題の熟練者のデータの分布に基づいて決定しました.また,ボールは等速直線運動でり,敵のプレイヤーは,ボールを等速で追従するものの,パスを奪うことはないものと仮定しました.

動画1:3つの社会的な力を考慮して動かした場合

 3つの力を考慮してシミュレーションしたのが動画1です.また,「空間力」「回避力」「協調力」をぞれぞれ取り除いて,2つの力のみでシミュレーションしたのが,動画2~4になります.「空間力」がなければ,時間が過ぎるとプレイエリアから飛び出してしまいます.こういう特徴は超初心者に見られるものです.

動画2:「空間力」がない条件

動画3:「回避力」がない条件

動画4:「協調力」がない条件

 分析では,前項で紹介した研究と同様の指標を用いて,熟練者と初級者にみられた2種類の同期パターンを算出しました.その結果,3種類の力の度合いパラメータがいずれも,80 N/m 以下の場合には,初心者に多くみられた部分逆位相の同期パターンの出現頻度が有意に高いことが分かりました(図2上の左側です).一方で,120 N/m 以上の場合には,熟練者にみられた回転の同期パターンの出現頻度が高いことが分かりました(図2上の右側です).このことから,熟練者のような協調パターンを実現するためには,3種類の「見えない力」を敏感に察知して動く必要があることが分かりました.特に,この3 種類の力のうち「協調力」に関するパラメータのみを変更したところ,図2に示すように,この「協調力」が同期パターンの出現に関わっていると考えられ,プレイヤーが互いの相対的な距離を察知できる練習環境を設定する重要性が示唆されました.

図2

(出典)Yokoyama, K., Shima H., Fujii K., Tabuchi N., & Yamamoto Y. Social forces for team coordination in ball possession game, Physical Review E, 97, 002400, 2018.

(報道)
・名古屋大学にてプレスリリースされました [PDF]
・米国物理学会のブログ(Physics Buzz)に取り上げられました [LINK]

三者協調を促す練習道具

 前述した研究では,三者の巧みな協調パターンを実現するためには,仲間との距離間隔に応じて,自己の位置取りの調整を行う「協調力」が重要であるが分かりました.そこで次の研究として私たちは,「協調力」への気づきをサポートするための練習道具を,ミズノ株式会社と共同で作製しました(出典1).この道具は,図1に示すように,3名のプレイヤーをゴム紐で連結したものです.これは,プレイヤー間の距離が遠ければ,ベルトに取り付けたゴム紐からの張力が,プレイヤーの腰あるいは背中に働くことで二者間距離を近づける効果を狙いとしています.また逆に,プレイヤー間の距離が近ければ,ゴム紐が弛むことで,その弛みの程度を視覚情報として得て二者間距離を遠ざける構造としました.つまり,ゴム紐の収縮によって,仲間との相対距離に関する情報が,触覚または視覚情報としてプレイヤーにフィードバックされる機能を含ませました.

図1:協調技能をトレーニングするための練習道具

 さらに,多機能性を含ませることを目的として,2種類の方法で三者のプレイヤーを結合するために,ベルトの構造を工夫しました.これら2種類のうちのひとつは,図2左に示すように,各プレイヤーのベルトの左右にあるフックに,3本のゴム紐を装着することにより,3名のプレイヤーを連結する道具です(以下,3本版と呼びます).これは,各3本のゴム紐が,それらを繋ぐプレイヤー間の相対距離に依存して張力や弛みが個別に生じる構造になっています.もうひとつは,図2右に示すように,ベルトの背中側に取り付けた筒状のカバーに,1 本の長いゴム紐を通すことで,三者を連結する道具です(以下,1本版と呼びます).これは,三者は1本の共通のゴム紐で繋がれているため,二者間距離の総和に応じて,背中から腹部への張力が全てのプレイヤーに均一に働く構造となっています.

図2:練習道具の二種類の使い方

 これらの練習道具の即時的な効果を調べるために,小学生のハンドボール選手を対象として,1本版の練習道具を利用する条件,3本版の練習道具を利用する条件,練習道具を利用しない統制条件の3条件で比較しました(出典2).その結果,パス回数や同期パターンの頻度に関しては,条件間の差は確かめられませんでした.このことは,練習道具を装着して練習したとしても,パスのパフォーマンスや協調スキルに関してはすぐに効果が期待できないことを示唆しています.一方で,三者が形成する三角形の内角の時間変化の特徴をみると,周波数に関しては,1本版と3本版の条件は共に,統制条件よりも有意に高い傾向が確かめられました.内角の時系列の高い周波数は,三者関係の調整の素早さを表しており,1本版または3本版の道具の装着により,三者の位置関係の素早い調整が促進されたと考えられます.また一方で,三角形の内角の時系列の振幅に関しては,1本版の条件は統制条件との差は確かめられませんでしたが,3本版条件については統制条件よりも有意に小さい傾向が確かめられました.三角形の内角の振幅の大きさは,三角形の形状を表しており,その値が小さくなるほど,正三角形に近い形状であることを示しています.3本版は,3本の等しい長さのゴム紐でプレイヤーを結んでいるため,正三角形に近い形状への補正は当然の結果と考えられます.これらの結果をまとめると,どちらのバージョンの練習道具であっても三者関係の素早い調整を促進する効果があること,正三角形への形状の補正効果は3本版が高いことが確かめられました.

 さらに私たちは,練習道具のトレーニング効果を調べるために,大学生のサッカー初心者を対象として,1本版の練習道具を利用するグループ,3本版の練習道具を利用するグループ,練習道具を利用しないグループに分け,1 日につき10回のトレーニング試行を合計で2日間に渡って実施しました(出典3).トレーニング前後のテスト試行におけるパス頻度を比較した結果,1本版と3本版を利用した両グループどちらに関しても,パスを繋げる回数が増える傾向が確かめられました.一方で,練習道具を装着せずにトレーニングを実施した 1 グループについては,パス頻度の増加は認められませんでした.いずれのグループも検証数が少ないため,一概に結論づけることができませんが,これらの結果は,練習道具の利用したトレーニングが,パスを繋げるパフォーマンスの向上に期待できることを示唆しています.

図3:

 この研究で検討した練習道具は,図3に示すように,この練習道具は,他者の動きの情報を触覚および視覚情報としてフィードバックする効果があると考えられます.またさらに,練習道具のバージョンに応じて,対人技能の自由度あるいは制約度の程度が異なると考えられます.具体的には,3本版については,3本の独立したゴム紐で結合されているため,各ゴム紐からプレイヤーに働く触覚情報は1本版よりも多いといえます.つまり,3本版は1本版よりも,対人関係を制約する度合いは高く,自由度は低いと考えられます.このことから,初心者に対しては,まずは3本版で練習をして,その後に1本版を試してみる,といった利用方法が効果的かもしれません.
 なお,この練習道具の利用する際に,留意するべき点があります.なぜならば,運動学習科学研究において,フィードバックに依存しすぎてしまうと,フィードバックなしにパフォーマンスを発揮することが困難になってしまうという研究も報告されているからです.つまり,この練習道具を使いすぎると,練習道具がなければ上手に動けない,という状況が起こりうると考えられます.どのようなスケジュールで行うべきか,ということは,利用者のスキルレベルや練習量に応じて,検討する必要があると考えています.

(出典)
1. 横山慶子山本裕二,田渕規之,上向井千佳子, 鈴木大介, トレーニング用具, 公開番号(P2017-18447A),美津濃株式会社, 国立大学法人名古屋大学.
2. Yokoyama, K., Tabuchi N., Araujo D., Yamamoto Y. How training tools physically linking soccer players improve interpersonal coordination, J Sports Sci Med, 19, 245-255, 2020.
3. 横山慶子・田渕規之・山本裕二,連携技能に関わる練習道具のトレーニング効果を検証する,スポーツパフォーマンス研究,12,193-208,2020.
4. 横山慶子, 集団運動における協調スキルを評価する, 体育の科学, 70, 2020.